いわゆる鉄道オタクではない。私が鉄オタだなんて言ったら鉄オタの方々に失礼だ。電車は好きだけど、そこまでではない。つまり、興味はあるけど詳しくない。
宮脇俊三さんの「シベリア鉄道9400キロ」を再読すると、電車が直流だとか交流だとか、車両がチェコ製、ドイツ製とか、二本のレールの間隔が「狭軌」ではなく、1435mmの「標準軌」だとか、鋭い観察力にうなってしまうが、私はそこまでではない。そういう宮脇さんも鉄オタではなく、超が付く時刻表マニアなのだけど。
とはいえ、大井川鐵道でSLにも乗った。房総のいすみ鉄道で菜の花の中のムーミン電車にも乗った。日本海に面した余部鉄橋が撤去されると聞いてお別れをしに行き、電車でその鉄橋を渡り、古い鉄の音を聞いた。その後、遂に鉄道DVDにも手を出した。しかし、このくらいでオタクというにはぬるすぎる。
余部鉄橋のほぼ真下にある民宿で、心から鉄道を愛するおじさんに出会った。おじさんの白いワゴン車は、足立ナンバーで、時間を見つけては全国の電車を見て、乗っているらしい。後部座席にはなぜか、鉄道職員さんが持っている紅白2本の旗があり、「なぜそれを持ってるんですか!?」と聞くと、おじさんのおしゃべりは加速した。余部駅からさらに上へと歩いたところに、かつて「お立ち台」と呼ばれる撮影スポットがあったが、それはもう閉鎖されてしまったこと、しかし、鉄橋の先にあるトンネルの真上に抜ける山道があって、そこからだと鉄橋がよく見えること、おじさんはあれこれ惜しみなく教えてくれた。
余部を後にしようと車に乗り込もうとした時、おじさんが慌てた様子でこちらにやってきて、「え!今帰っちゃうんですか?あと15分で「特急はまかぜ」が来るのに、「はまかぜ」見ないんですか!!」と声をかけてきた。「はまかぜ見ないで帰るなんて信じられない!」といった表情をしていた。おじさんの頭の中には、時刻表が完全にインプットされているようだった。正直、私にとって「はまかぜ」はどうでもよかったのだが、余部鉄橋を走る「はまかぜ」に手を振って余部をあとにした。
シベリア鉄道に乗るなら、やっぱりウラジオストクからモスクワまで全線走破にこだわりたかった。世界最長の鉄道を端から端まで!ウラジオストク〜ハバロフスク間を走る「オケアン号」 、 イルクーツク〜モスクワ間を走る「バイカル号」など、いろんな電車がある中で、「ロシア号」の、しかも車体番号1番に乗りたい。2番じゃ意味がないのだ。念のため、旅行会社に「ロシア号の車体番号は1番ですよね?」と確認したところ、「2番かもしれない」と言うので、ショックを隠しきれなかったが、調べてもらったところ「間違いなく1番です」とのこと。
思い立ったらすぐの私にとっては、旅行会社に仮予約を入れて、ロシア号の座席を確保してもらってからが長すぎる。今すぐに乗りたい。いろいろ準備はあるだろうけど、忘れ物があったとしてもなんとかなるものだ。今すぐロシア号に飛び乗りたい。旅する人には2つのタイプがあるらしい。「明日インドに行こう!」と思って、それをやっちゃう人と、明日なんてとんでもない!と笑い飛ばす人。私は間違いなく前者だ。行き先の下調べなどはしておきたいけれども。
ロシア号1番列車の乗車まであと少し。