今回、仕事で訪れたのは、雲仙普賢岳のふもとにある旅亭「半水盧(はんずいりょ)」という知る人ぞ知る高級旅館。なんと、総工費120億円!ひゃくにじゅうおくえーん!なのに、客室14室!そのひとつひとつが、建物まるごと一戸という贅沢さ。しかも、すべて京都の宮大工を集めて作らせた見事な数寄屋造りで、夜にはライトアップされる庭園もまた美しいことこの上ない。すべての客室(というより家)は、すべて地下通路でつながっていて、外へ出ることなく露天風呂へ行ける。そもそも、特別室2室には露天風呂も付いてるんだけど。調度品はすべて数百万〜数千万という超ホンモノ!
お金持ちの考えることは想像を絶する。
そして、驚くべきはなんといってもサービス。滞在中、一流旅館の裏側を垣間見て、とにかく感激の連続だった。長崎最後の夜に、そのサービスをお客様の側で受けることに。おひとり2万円の懐石料理と聞いて、庶民の私は「2万円あればあれも買える、これも買える」とぼんやり考えてしまったけれど、食事を楽しんだあとで、「これは安い!」「またぜひ食べたい!」とつくづく思った。季節感を感じさせるお料理は、美しく、楽しく、おいしく、本当に素晴らしかった。
芸術品のように美しい懐石料理を作る料理長は、京都吉兆で20年以上修行した方で、普通に東京で食べるなら5万円はするお料理だとか。食事は、見事な庭園を眺めながら、日常を忘れていただいた。
食事の前に、浴衣に着替えてお茶をいただく。本当はお風呂にも入れるのだが、元上司と「オメエとじゃなかったら風呂にも入る」「それはこっちのセリフだ!」とギャーギャー言い合って、客室係のおねえさんも困った様子。仕事じゃなかったら‥‥と思わずにはいられない。
お茶を飲んでひと休みしたところで、1階へ。建築好きとしては、もっと日本の建築様式について勉強してくればよかったと思った。職人の贅沢極まりない「遊び」があちこちに施された贅沢な建物に圧倒された。3月ということで、食前酒には桜の花びらが。
料理長の繊細な技に、いちいち感嘆の声!
この輪島塗りの漆器がまた美しいったらもう。
半水盧には、漆器を保管する「漆器庫」といったものがあるのだった。恐るべし。
魚の感触が、もはや私の知る食べ物ではなかった!
鎖国時代、唯一外国人が入ってきた長崎。島原半島の真ん中に位置する雲仙は、ゴルフ場があり、温泉もあり、ヨーロッパの人たちの避暑地として栄えていたらしい。で、これはごま豆腐。
一番感動したのがこれ。電気を消したあとで運ばれてきたお盆にあかりが灯っている。なんと!大根でできているではないかーッ!すごい職人技。
しかも、縁を赤く彩るだけでなく、内側には桜の花びらまで‥‥。丸めた大根の重なった部分が視界に入らないような気配りには、感激で胸がいっぱいになった。味はもちろん、季節を感じさせる演出と、このおもてなしの心。世界中でこんな素晴らしい料理ってあるだろうか。日本ってすごい。
食事を終えて外に出ると霧の中だった。非日常な空間を、より演出しているようだった。この仕事で、毎日パソコンに向かって仕事をしている生活を顧みた。人が人をもてなす心に触れたからだ。女将さんと束の間お話しできたのも感激だった。周りにがんばってる人はたくさんいるけれど、半水盧の女将さんはすごい。一流のお客様をお迎えするための努力を垣間見る度に、心を打たれた。社長さんもお忙しい中、連日おもてなししてくださった。感謝でいっぱい。
「泊まる」という概念もすっかり変わってしまった。でも、一人旅で泊まるのはやっぱり安宿だけれど。
本当ならこの素晴らしい建築や懐石料理、お風呂、おもてなしを理解した上で仕事をしたかったけれど、今回は緊急の助っ人だったので、理解したことをあまり生かすことができなかった。それがとても残念。それでも、去年からの絶不調を完全に抜け出て、精一杯できたと思う。たぶん、エンジンがかかったのは約1年半ぶり。精一杯、楽しく仕事ができる日がまたやってきたことが何よりもうれしい。
旅館に戻って温泉に入り、冷蔵庫に冷えていたお夜食のフルーツ盛りを食べた。
我ながらあり得ない食べっぷり。